西元祐貴が陶土の板に釉薬で描き、高温で焼き上げる陶墨画(とうぼくが)。陶墨画には、独自に開発された釉薬が用いられる。西元いわく、「和紙は引き算で描くが、陶墨画はたし算」。陶墨画の場合、重ねて塗った部分は、焼いた後により深く濃い黒の光を放つからである。
完全に乾燥させた後、窯で焼く。最初の焼成は800℃。窯出しして再び色を重ね、乾燥させた後、1250℃の窯で焼く。この作業を納得いくまで繰り返す。
陶墨画は、火・水・土・風、自然とのコラボレーションである。故に、複数の焼成段階で釉飛びや、陶板の割れが発生する等、不測の事態が成功確率を低くする。しかし、逆に、想像もしなかった効果を得られることもある。独特の躍動感ほとばしるタッチに、不規則で神秘的な表情が加わる。和紙の作品では見ることができなかった、独自の新しいアート作品である。
陶墨画は、焼き上がるまで発色を確認できない。一瞬が勝負の墨絵とは、描き方も全く異なる。 経験を頼りに仕上がりを想像し、緻密に計算しながら何度も重ね塗りをしながら描き上げる。
釉薬のインクが溶け、浮き上がり、ガラス釉薬に「貫入」と呼ばれる複雑で美しいヒビが入る。まるで雲がゆらめくような、柔らかい流水のような妖艶さ。そして貫入が放つ光の乱反射。人間が決してコントロールできない、神性を宿した美しさを帯びる。
素焼き、本焼きを繰り返して作られる陶墨画の製作工程は、古くは唐(中国)の唐三彩等の流れをくむ。ひとつの作品が完成するまでに5ヶ月以上を要するが、その美しさは2000年後も色褪せることはない。
なめらかな肌艶に描かれた一筆一筆の凹凸を指でなぞると、西元の息遣いや、生命の力強さが伝わってくる。